主な研究課題
新生代第四紀,とくに後期更新世以降の環境変動史の解明と地形・人間活動との関わりについて検討.最終間氷期および後氷期における堆積物から 環境変動を解読するとともに地形発達史を明らかにする.完新世における環境変化・地形変化に関してはボーリング調査などによって採取された 沖積層の分析により,堆積環境・古地理・地形発達史を解明し,海水準変動や土砂供給量の変化,洪水の頻度などとの関わりについて検討.
ハンドオーガーで採取された堆積物とジオスライサーによる堆積物
オーストラリアShoalhaven川低地の沖積層と堆積環境の変遷 (Umitsu et al, 2001)
古くから人々の生活は自然環境と密接な関係をもち, 自然環境の大きく依存してきた.とくに,日本をはじめとする東アジア,東南アジアなどの地域では稲作が行われる沖積平野や海岸平野が生活の場となっていることも多く, これらでは同時に洪水をはじめとする様々な災害の影響を強く受けてきた.なかでも,東南アジアの沖積平野・海岸平野では今日においてもインフラの整備が 十分に行われていないところも多く,自然災害に対してきわめて脆弱な環境となっている.このような地域において発生した自然災害に関して,災害の実態や そのメカニズムを明らかにするとともに,自然環境と人間活動との関わりについて検討し,災害の復旧・復興に資することはきわめて意義深い.
海津はバングラデシュにおいて水害・サイクロン災害と低地の地形に関わる調査を行い,海津(1989,1991),Umitsu(1993, 1997)などで報告した. また,2004年12月26日にスマトラ沖で発生したマグニチュード9の巨大地震に伴う津波災害について,津波被災地域であるタイのアンダマン海沿岸平野と インドネシアのバンダアチェにおいて2005年1月以降数回にわたって現地調査をおこない,それらの成果をUmitsu et al.(2007),海津(2006, 2007)などで発表した. さらに,2011年3月11日には東北地方太平洋沖地震によって東日本大震災が発生し,現地調査をおこなうとともに,Umitsu(2016)などで報告した.
サイクロンで屋根を飛ばされたバングラデシュSandwip島の小学校(左)高潮によって泥で埋まったSandwip島の海岸
高潮で破壊されたSandwip島の海岸の民家(左)現地調査にもとづく高潮の高さ(チッタゴン〜コックスバザール間) Umitsu (1997)
インドネシア国バンダアチェにおける津波の流動(建物の床に残された擦痕と倒れた柱の方向を計測した結果にもとづく)
バンダアチェ平野の地形 (Umitsu et al, 2007)
Nam Khemナムケム平野における津波堆積物の分布と津波流動方向
Nam Khem仙台平野における津波の流動と海岸線の変化(Umitsu, 2016)
日本列島の各地ではここ数年毎年のように豪雨災害が発生しており,このような豪雨災害が発生する場所として,多くの人々が生活している沖積平野や, 土石流の被害を受けやすい山間の河谷などにみられる谷底平野(谷底低地)などをあげることができる.また,海岸平野の臨海部は高潮や津波などによる災害の リスクが高い場所である.このような沖積低地はいずれも比較的新しい地質時代に形成・発達した地形で,自然の状態では河川が氾濫するなどして土地が変化し, さまざまな地形が作られてきた.そのような意味において沖積低地における洪水・氾濫は本来の自然の姿でもあるが,そこに人々が住んでさまざまな生活を するようになると,自然現象の洪水・氾濫は水害という自然災害になってしまう.沖積低地にみられるさまざまな地形や堆積物は洪水・氾濫の結果としてつくられた ものであり,それらをしっかりと把握することにより,それぞれの場所の自然災害に対する特性や水害時のリスクを把握することができる.たとえば下の写真に 示す旧河道のように、旧河道はまわりより低い浅い溝状の土地であることが多く,豪雨の際には洪水流が流れたり湛水しやすい場所である. 20019年の台風19号で水害を受けた神奈川県の武蔵小杉付近はすでに都市化した地域であるが,微地形分類図(治水地形分類図)をみると,自然堤防や旧河道など わずかな起伏の違いを示す微地形が認められ,それらの微地形の違いが浸水状況の場所的な差異を導いた.また,海津(2020)では陰影起伏図と地形分類図を重ねて 表現すると地形を実感的に把握することができ,有効であることを述べた.
関連した内容を2021年3月26日開催の日本地理学会春季学術大会<災害地理学特別セッション>で発表しました.左の項目タグの<リンク>から発表のpdfを開くことができます.
沖積低地の地形模式図(海津, 2019) 氾濫原の微地形を示す地形陰影図 (海津, 2019)
左:地理院地図の標準地図および陰影起伏図と重ねて表示した武蔵小杉駅周辺地域の治水地形分類図 (赤丸は旧河道に立地するJR横須賀線武蔵小杉駅の位置)(海津, 2020) 右:オーストラリア・ショアルヘブン川低地に見られる旧河道(海津, 2019)
相模川低地の地形分類図(数値地図25000 土地条件)(左)と同図に陰影をつけて表示した図(右)(海津, 2020)
リアリティーのある地形の認識(地図に陰影起伏図を重ねてみると子供の頃の断片的な記憶が裏付けられる)
人類はその出現以来,自然環境の中で生活し,自然環境に対してさまざまな働きかけをしてきた.とくに,沖積低地や三角州, 海岸平野などの極めて地形的に不安定な地域では,人類はさまざまな制約の中で生活し,自然環境に対してさまざまな対応をしてきた. 近年注目されつつある地球温暖化にともなう海面上昇の影響などグローバルスケールからリージョナルスケールまで,三角州や海岸平野を中心に 人間活動と自然環境との関わりについて多面的に検討する.
海津正倫・平井幸弘編著(2001)『海面上昇とアジアの海岸』など参照.
メコンデルタにおける海面上昇の危機(左上) (1999.12 海津撮影)
ベトナム中部Hue付近の海岸侵食で破壊された家屋(右上)(2000.3 海津撮影)
チャオプラヤデルタ(タイ)の海岸侵食で残った道路沿いの電柱(下左)(1997.12 海津撮影)
メコンデルタの水面すれすれの土地(下左)(2000.12 海津撮影)
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